冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 





「リアム様がグラスゴーからお戻りになられないというのは本当か!」


 リリーのもとへとその知らせが届いたのは、リアムが単身でグラスゴーのエドガーのもとへと向かってから、二日が過ぎた頃だった。

 騎士団の伝令兵が邸を警備する隊員に知らせに来たのを、リリーが偶然聞きつけたのだ。


「ああ、本当だ。国王陛下は今日にでもダスターに軍の指揮をさせ、グラスゴーへと向かわせると言っていた」


 つまり、ダスターがリアム奪還のために動くということだ。

 物陰からふたりの会話を聞いていたリリーは、高鳴る鼓動を落ち着かせるように、音もなく息を吐いた。


「ダスター様はすでに出発の準備を終えていて、武器を積んだ荷物も、ほら。この先の森を抜けたところに、用意してある」

「ということは、出発は、まもなくか」

「ああ。さすがに国王陛下も、ご自身が信頼を寄せるリアム様が帰ってこないということもあり、腹を立てているご様子らしいな」


 ドッドッドッと押し寄せるような自身の心臓の音を聞きながら、リリーは唇を噛み締めた。

 今の騎士団の隊員たちの話を聞く限りでは、リアムは本当に危険な状況に置かれているに違いない。


「ダスター様は、とにかくここの警備の手も緩めるなと申しておられた。夕方には、警備のものが増員される予定だ」


 伝令兵のその言葉を合図に、リリーはソフィアとオリビアの待つ部屋へと駆け足で向かった。


「ハッ、はぁ、は……ぁっ」

「リリー様? どうかなさいましたか?」

「おかーたま! おかえりなたい!」


 リリーが部屋に入ってくるなり、昼寝から目覚めたばかりだったらしいオリビアがリリーに向かって駆けてきた。


「オリビア……っ」


 その小さな身体を、リリーは力いっぱいに抱きしめた。


「おかーたま? くすぐったい!」


 雪のように白い肌に頬を寄せると、リリーは深く息を吐いた。

 オリーブ色に輝く宝石のような瞳は真っすぐに、母であるリリーのことを見つめている。

 その目を見たら、リリーの決心がまた揺らいだ。

 けれど、今は――オリビアの未来を守るためにも、リリーは厳しい決断をしなければならないのだ。

 
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