冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「――というか、一国の王女様が夜更けに男とふたりきりなんて、あまりに無防備すぎるだろう」
「え……? ごめんなさい、今なんて?」
ローブに隠された口元でつぶやかれた男の言葉を、リリーが聞き取ることはできなかった。
キョトンと首を傾げるリリーを前に、男は心の中で先程のリリーの涙と、自身の手に触れたリリーの手の温かさを思い出して、クスリと小さく笑みをこぼす。
「いえ……なんでもありません」
男はそう言うと、ゆっくりと顔を上げた。
「自分で良ければ、リリー様の話し相手にお使いください」
そうしてふたりは立ち上がると、花園の一角にある温室の中へと歩を進めた。
月明かりのさすその場所は、花好きだったリリーの母のために、名のある設計士が趣向を凝らして造り上げたものだ。
昼間は明るく美しい温室も、夜になれば神秘的で幻想的な空間に様変わりする。
そんな場所に今、一国の王女と、黒いローブを被った隻眼の衛兵がいるなどと、王宮内の誰も想像しないことだろう。
「ふふ……っ」
そう考えると、なんだかリリーはおかしくてたまらなかった。
まるで、両親に反抗して家出をした子供のようだ。
男も似たようなことを考えたのか、突然笑みをこぼしたリリーを前にしても、どうして笑ったのかなどという野暮なことは聞かなかった。