冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「こんなことを尋ねるのは失礼かもしれないけれど、貴方のお名前をお聞きしてもいいかしら……?」
「俺──いえ、自分の、名前ですか?」
「ええ。私、お世話になっている方のお名前は、きちんと覚えておきたいの」
「そ、そんな。自分には、もったいないお言葉です! 自分は、名乗るほどのものではありませんから」
「え──?」
男の放った『名乗るほどのものではない』という言葉に反応したリリーは、つい声を詰まらせた。
即座にリリーの脳裏を過ぎったのは、毎年同じ文句を告げて孤児院に支援物資を送ってくれる、〝名も無き贈り主〟のことだ。
「だからどうか、自分のことはお気になさらないでください」
「……ふふっ。なんだか、不思議ね」
「え?」
「いえ……ごめんなさい。私が尊敬している方と、貴方が似たようなことをいうから少し嬉しくなってしまって」
そう言いながら涙を浮かべて微笑むリリーを、男は相変わらず不思議そうに見つめていた。
「あの……、こんなことをお願いするのは図々しいかもしれないのだけれど、ほんの少しだけでいいから、今から私とお話をしませんか?」
夜空に浮かんだ月を、灰色の雲が隠した。
突飛なリリーの提案に、男は再び目を見開いて固まると、答えに迷って唇を引き結んだ。
まさか、王女であるリリーと衛兵である自分が、夜更けにふたりきりで談笑するなど絶対に有り得ない話だ。
だからこそ、男は何かリリーには別の思惑があるのでは……?と勘ぐったが、自分を見つめるリリーの純粋無垢な瞳を前に、馬鹿な考えだとすぐに頭の中で首を横に振った。