人魚の愛
人魚の掟

人間と恋してはならない。


海底の神殿に住まう人魚の女王、アクア様が決めた掟。

女王の決めたことは絶対だ。


――それが、私たち人魚の為になると分かっているから。


朝ご飯の魚を獲るために浅瀬にいたとき、浜辺に横たわっている少年を見つけた。

じきに満潮の時間がくる。

見つけた以上放っておくことは出来なかった。

満潮に巻き込まれない海辺の洞窟へ、尾ひれを白い二本の足に変えて運ぶ。


見つけた以上、面倒は見よう。


「ん...」

長い睫毛の間から綺麗な海色の瞳が覗く。

ようやく目が覚めたようだ。

あんなところで横たわっていたということは十中八九、海で遭難していたのだろう。

もうその瞳が開かれない可能性もあった。

「大丈夫?」

意識がぼんやりしているようなのでとりあえず水を飲ませる。

「あり、がと...」

よほど喉が渇いていたようで器はすぐに空になった。

しかし、飲み方がやけに上品だったことからして良いとこのお坊ちゃんだろうか。

「えっと、あなたはどなたですか?」

人間と人魚の仲は実のところあまりよろしくない。

なぜなら人魚は本気になれば一国をも滅ぼせるほどの力を持ち、人間よりも長い寿命であるから。

大陸のほとんどの国には「人魚と結婚してはいけない」なんて法律もあるとか。

「私の名は...秘密だ。
女には一つや二つ秘密がある方が良いだろう?

さて、では君の番だ」

実のところ人魚には名前は無い。

言ったところで相手が困るだけなので言わないが。

「僕は、アーク王国第一王子のアレン」

なるほど、この子が遭難していた理由が分かったぞ。

「アレン君、迂闊だぞ。一国の王子、それも第一王子の身分を出会ったばかりの人間に明かしてはいけない。私がわるーい大人だったらどうするつもりだったんだ」

うぐっ、と言葉に詰まったアレン。

そんな体たらくでここまで生きてこれたのは強運だったとしか言いようがない。

「でっでも、僕を助けてくれた人だし、あいつらとは違うと思って...」

今度はこちらが言葉に詰まる番だったが、

「ンンッ、人をすぐに信頼できるところは良い所だけど、第一王子としてはもっと人を疑いなさい」

私から、王族としての心得を教えた。

伊達に百年生きていないのだ。

なぜ人間にそこまで親切をしたのかは自分でもよく分からなかったが、人間の国には「情けは人の為ならず」という諺もある。



――この出会いは私の運命だったのかもしれない。
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