没落姫の溺愛婚~双子の寵姫も楽じゃない!?~
「もちろん、忘れられるなら、今すぐにでも忘れてしまいたいです。 
でも……」

 頭では忘れようと必死なのに、上手くいかない。

 二人に拾われ、若干溺愛されすぎるのが悩みの種だけど、一応平穏に暮らしているから。

 あまりにも今の生活が平穏すぎて、ふとした瞬間に嫌でも記憶が蘇る。

 忘れてたくても忘れられない、過去の記憶が……。

「彩希。 
ごめんね、急だったね……」

「芳哉様……?」

 ふいに芳哉が優しく囁いて、頬を柔らかく撫でる。

 触れる手の温もりが、とても心地いい。

 その心地よさを、いつもよりも強く肌で感じてしまって、彩希は戸惑いながらも彼の名前を呼んだ。

「泣かないで。 
私達はずっと、彩希のそばにいるよ」

「あ…………」

 そう言われて初めて、彩希は自分がいつの間にか泣いていたのに気づいた。

 芳哉はそんな彩希に、安心させるような柔らかな笑みを浮かべる。

 そして、頬を伝う雫を優しく指で掬い、涙で濡れた瞼にそっと口づけを落とした。
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