怖がらないで

いつもとは違う日々に

マネさんから連絡が来て今日の仕事がひとつ増えたらしい。

相手側の都合らしく今日を逃すと当分時間が取れへんらしくて急遽やって


「相手って誰なんやろな」

「んーと」


俺の質問に答えようと蓮が携帯をつつく

メールの内容をスクロールして「お」と声を上げた。


「KILLER(キラー)だって」

「え!?めっちゃ会うの久しぶりやん!」


KILLERは、俺たちのライブでもお世話になってる6人組ダンスグループでレベルの高いダンスはもちろんアクロバットまで出来てしまう。
しかも歌までうまいというハイスペック人間が集まっとるグループなんよ

そこの6人とは長い付き合いで俺たちの関係も俺のことも知ってくれていて、分かってくれてる心許せる数少ない友達たちなんや


「ほんとに久しぶりじゃん、ライブ最近出来てないしね」

「ほんまやなぁ仕事終わったら話できるとええな」


ライブが出来てないのは俺のせいでもあるんやけどな



俺はちょっと珍しい病気を生まれながらに持っている。

病名は【先天性無痛無汗症】

痛みを感じず、体温も分からんから汗が出ない。

これだけ聞いたら痛くないなんて最高やん。汗かかないなんていいやん。

なんて思われてまうんやけど、痛みが分からないから骨が折れてても、どこが怪我してても、病気になってても気づけない。

汗が出ないから体温調節できなくて、熱中症にも低体温症にもなりやすい。

先天性やから、痛みは知識でしか知らんくて、これは痛いことなんやなこれは熱いものなんやなって頭に一つ一つ入れていかなあかん。

見た目じゃ分からんものも最近増えてて湯気出てへんからって触った缶は大火傷につながってしもうた。

この病気のせいでまともに学校も行けんかったし、この仕事がなかったら何してたんやろうかって時々怖なる。

ほんまに今があってよかった。



マネさんの車に揺られ数十分。


「雑誌の取材と撮影なのでここに行ってください。僕ちょっと事務所に行かないといけなくてすみません」


車で送ってくれたマネさんは申し訳なさそうに謝ってきた。


「全然ええよ!とりあえずここに行けばええんねやろ?」

「はい!お願いします!」


マネさんはすごい勢いで頭を下げて俺たちが車から下りるやいなや車を出発させた。


「すごい急いでたね」

「ほんまになぁ、なんかあったんやろうか」

「まぁとりあえず行こうか」

「そうやね」


マネさんの勢いに圧倒されてその場に立っていた俺たちはマネさんからのメモを片手に楽屋をめざした。



楽屋に着くと衣装が用意されていてメイクもいつでも出来るとの事だった。


「今日の衣装これなん?」

「そうみたいだけど…テーマなんだったけ?」


アンケートになんや色々書いた気がするんやけどテーマが思い出せない。


「あ、大人の色気だよ」

「色気?」


そんなんやったっけな?

蓮の言葉に若干違和感を覚えつつもなんでもええかと納得し、衣装に着替えてメイクをしに楽屋を出た。


カシャカシャとカメラのシャッター音が部屋に響く。

蓮の言ったとおりテーマは大人の色気。

それも結構際どいやつ

セットのベッドに衣装の白ワイシャツと黒のズボンとシンプルなため肌の露出を求められる。


目の前には半分肩を出し煽るように目を細め色気ムンムンの蓮がおる。


蓮に見てって言われてへんかったら見るつもり無かったんやけど、今日は頑張るからなんて言われてもうて今日はってなんやってツッコミながら承諾してしもうた。

今からこれ自分がせんといけんのや…

蓮の撮影を見ているとこれから自分もしないといけないという謎の緊張感に出ないはずの汗が手のひらを湿らせた。


「はい!OKでーす!次、向井くん!」


監督の声にどピンクの雰囲気が出ていたスタジオに賑やかな感じが戻る。


「ちゃんと見てた?」


撮影を終えた蓮は、霧吹きによって濡らされた肌を拭きながら話しかけてくる。


「もちろん見とったで、やっぱすごいな蓮は」


蓮の方が身長が少し高い分今の格好と目線はなんだかいけない雰囲気になりそうで、質問に早めに答えて足早に去った。


「じゃあボタン1個外してみようか」


第二ボタンまで外したボタンをもう一個外せと要求が入る。

片手で外しながらチラッと蓮を見ると蓮はスタッフさんと話していて全く見ていなかった。

人にはあれだけ見ろって言うくせに…

蓮のことを見るのをやめて撮影に集中する。

ふぅーっと長い息をつき、目を閉じて…
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