あたしを撫でる、君の手が好き。

「あっくん、あたし、犬じゃない……」

「亜聡ー!」

ぼそりとつぶやいたとき、少し離れたところからあっくんを呼ぶ声が聞こえてきた。

あたしの頭に手をのせたまま振り向いたあっくんの視線の先で、徳永さんがにこにこと手を振っている。


「亜聡、さっきの約束、絶対に忘れないでね」

口元に手をあてた徳永さんが、大きな声であっくんに呼びかけてくる。

絶対に忘れたらいけない約束も気になるけれど、それよりも……、徳永さんがあっくんのことを名前で呼んだことに、ヒヤリとした。

それから「あぁ、わかってる」と、徳永さんに普通に返したあっくんにも。


「楽しみにしてる。じゃあね、亜聡」

廊下の離れた場所から、徳永さんが少し跳ねるようにしてあっくんに大きく手を振っている。


「じゃーな。春菜」

徳永さんに軽く手を振り返したあっくん。その口から零れた言葉に、血の気が引いた。


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