ボーダーライン。Neo【上】
「え。やだ、ちょっと秋月くん! 起きててよっ」

「ちょ、先生、声でかいって」

 案の定、周りの乗客にジロリと睨まれる。慌てて頭を下げた。

「ごめん」

 呆れ顔の彼を見て、あたしは肩をすくめた。

「ここなんだけど、まわれるかな?」

「どれ?」

 秋月くんは、仕方ないと観念し、開いたマップ本に目を向けた。

「あ、大英博物館? 王道スポットじゃん」

「うん。ここのね、エジプトの文化遺産とか。ギリシアのね、パルテノン神殿の彫刻とか。凄い興味深い」

 言いながら、本に掲載した写真を指差した。

「そっか。じゃあ着いたらまずは大英博物館だな」

「え、最初って大丈夫? 遠くない?」

「大丈夫。ここ最寄り駅がホルボーンなんだけどさ、実はじいちゃん家から近いんだ。館内、広いしゆっくり見れるよ?」

「うそ! やったぁっ! じゃあさ、じゃあ、ここのね? バッキンガム宮殿とか、ウェストミンスター寺院とか。あ、あとタワーブリッジも」

「はいはい。心配しなくてもその王道スポットは二日目にちゃんとまわるから」

「ほんと? じゃあ安心したっ!」

 ウキウキした気持ちで本を閉じた。

「ロンドンまでまだ十時間以上あるし。先生、ちゃんと寝た方がいいよ?」

「ん、分かった」

 座席のシートにもたれ、あたしは宙を仰いだ。楽しみだなぁ、と小さくひとりごちる。

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