ボーダーライン。Neo【上】
「秋月くんに手、引かれてると。最初に出会った時の事、思い出す」

「え。ああ」

 彼の担任になる三日前。交差点の目の前で靴が壊れたあの日の事だ。

「秋月くん、駐車場まで送ってくれて。凄く親切な人だな~って。思ったんだけどな」

「‘けど’って、なにそれ。どういう意味」

 お洒落な街並みで、苦笑した彼が振り返る。

「だって。番号聞かれると思わなかったし」

 秋月くんは眉を下げ、クシャッと笑った。

「あの時。秋月くんの事、大学生だと思ったよ?」

「うん、俺も」

「え?」

 天井がアーチ状になった市場を歩いていると、時々、人とぶつかりそうになる。

「先生の事大学生だと思った。先生って大人だけど。見た目、幼いよね?」

「そ、そんな事」

 無いとは言い切れない。むしろ昔から超が付くほどの童顔で、図星もいい所だった。

 歌劇場であるロイヤル・オペラ・ハウスを写真におさめ、バックブランドのお店、オーラ・カイリに立ち寄る。

 あたしはそこで、カラフルにプリントされた大きめの手提げ鞄を買った。

 軒を連ねる店を何件か見てまわり、大きな広場に出た。

 キラキラと水しぶきを上げる噴水や高さ五十メートルの円柱が建つここは、トラファルガー広場というらしい。

 その広場に面し、大きな存在感を見せる国立美術館。円形のドームが目印の、ナショナルギャラリーだ。

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