ボーダーライン。Neo【上】
『檜くんとは。学校がどうとか、あたしの仕事がどうとか話しただけよ? 彼がどうかしたの?』

 ーー彼。

 何故だろう。檜くん、とか。あの子って言わない美波に、胸の奥がモヤモヤとした。

「あ。ううん、別に」

 あたしは胸を押さえ、慌てて頭を振った。

『ふぅん、変なの』

 何でも良いから話題を変えようと目をキョロキョロさせる。

「あ。今日ね? 旅行の写真、焼き増ししたの。美波と写ってるやついっぱいあるから、また渡すね?」

『うん』

 それからは仕事の愚痴や料理の話といった、取り留めのない会話をし、電話を切った。

 あたしはテーブルの上に広げた写真をひとまとめにし、中から彼と映った写真を抜き取ると、それを一枚だけ日記帳に挟んだ。



 翌日の休み時間。特別棟へ向かう途中、あたしはピタリと足を止めた。

 どうしてだろう。気になる人が出来ると、決まってその人の声だけがマイクを通したみたいに、ハッキリと聞こえてしまう。

 秋月くんは人目につかない場所を選んで、電話で話をしていた。

「……そう、あの時。美波さんの車に乗ったの見られてて。それで何か、俺の好きなやつが美波さんだって誤解されてて」

 電話の相手は、おそらく美波だろう。手に持った教科書をグッと抱き締める。
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