ボーダーライン。Neo【上】
 あたしはサッと柱の陰に隠れ、そのまま盗み聞きを続けた。

 話の内容から、昨日の事を言っているのだと分かった。美波は昨夜(ゆうべ)、秋月くんを拉致ってデートしたと言っていた。

「……や、何も。先生来たから適当に流したし」

 ーーあたし?

 秋月くんは何をそんなに動揺しているんだろう。

「え。じゃ、次聞かれたらそうだって答えんの?」

 彼は浮かない顔つきで、溜め息をもらした。しかし、美波が何を言ったのか、彼は頬を赤らめた。

「え?! な??」

 表情がくるくる変わる。驚いたかと思えば、今度は少し怒ったような顔で首の裏を掻いた。

「ナナは。そんな事しねぇよ」

 ーー水城さん? 前に恋人関係には無いって言ってたけど。体の関係はあったみたいだし。随分、仲良しだよね。

 あたしは若干、顔をしかめたまま足元を見つめた。内心、面白くない気持ちだった。

 そのうち、秋月くんが通話を終え、去って行く。

 その背中を見つめ、あたしは首を傾げた。

 ーー美波とも。いつの間に仲良くなったの?

 あたしは唇を噛み、サッと踵を返した。




 告白の返事をどうするべきか。あたしは日々、自問自答して過ごしていた。

 秋月くんの事は勿論、好きだ。二十五にもなる教師が十七歳の生徒に、恋心を抱いている。そう考えるとやはり恥ずかしさと申し訳なさが広がり、胸中は複雑だ。
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