ボーダーライン。Neo【上】
「あれ? 秋月、くん?」

 電話の回線がおかしいのかな、と不安になり、一度携帯を耳から離した。

『もしもし?』

 ようやく彼の声が聞こえ、とりあえずホッとする。

「あ。えっと、どうしたの? 急に」

 あたしは赤の普通車に近付き、自動で鍵を開けた。とりあえず、運転席に乗ってから話をしようと思った。

「うん、急だよね」

「え…?」

 意外にも、声はすぐ近くで聞こえ、あたしは辺りを見回した。

「ごめん。電話はフェイク」

 そう言って、彼は隣りの車の陰から現れた。

 言わずもがな、あたしは口をぽっかり開けて驚いた。

 ーーいつから居たの?

 思いがけない不意打ちに、心拍が早くなる。あたしは携帯を握り締めたまま、胸を押さえた。

「秋月くん、何で」

 彼はポリポリと頭を掻き、田崎先生が去った方向に目を向ける。

「邪魔なんだ、アイツ」

「え?」

「田崎」

 そのまま顔をしかめ、舌打ちまでもらす。

 秋月くんが日頃から田崎先生を嫌っているのは知っていた。

 なるほど、先生を追い払う為に電話をかけたんだ、と分かると、何だかおかしくて、あたしは顔を崩して笑った。

「まさかそれで電話?」

「そう、だよ」

 ひとしきり笑った後、あたしは普段通り、教師の顔を作った。
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