ボーダーライン。Neo【上】
「で。あたしに何か用?」

 そう言った途端、秋月くんの眉がピクリと動くのが分かった。

 彼は幾らか不機嫌さを見せ、真顔になる。

「‘好きだ’って言った返事を。聞かせて貰おうと思って」

 ーーえ!

 ドクン、と鼓動が打った。

 ーー返事って。今ここで?? 面と向かって言うの?

 恥ずかしさに頬が熱くなる。

 秋月くんの茶色い瞳から逃げるようにあたしは顔を背けた。そのままウロウロと視線を漂わせてしまう。

「もう一ヶ月経ったしさ。聞かせてよ、俺をどう思ってんのか」

 どうしよう、ちゃんと断りの返事は考えていたはずなのに、驚いた拍子に頭が真っ白になってしまった。

 それでも、とにかくは上手な嘘をつかなければいけない。

 あたしは彼から目を逸らしたまま、取り繕う様に言葉を述べた。

「ご……、ごめんね。秋月くんはいい子だと思うけど。あたしにとっては、やっぱり可愛い生徒だから。だから」

「じゃあ。目ぇ見て言えよ?」

 彼の低い声に、ビクッと肩が揺れた。

「……あたしは」

 ゆっくりと顔を上げ、秋月くんを正面から見つめた。

 整った顔立ちに、魅惑的な茶色の瞳。彼はやはり二次元のアイドルみたいで、ともすれば、ぼぅっと見惚れそうになる。

「あたしは、あなたを。……好きに、ならない」

 自らで暗示をかけるようでもあった。あたしの狡さを見透かされそうで怖かった。
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