ボーダーライン。Neo【上】
 ふぅん、と呟き、あたしは時期尚早だったって事かな、と考えた。

 フライパンの火を止め、照りのついたブリをそのままに、あたしは椅子に座った。

『でもさ、今日歌ったら来月頭、出てみないか? ってようやくオッケー出たんだ』

「そうなんだ? 良かったね?」

 うん、と秋月くんが嬉しそうに言った。電話の向こうで、あの笑みを浮かべている気がして、あたしも嬉しくなる。

「てか。秋月くんって、ボーカルだったんだ?」

 ーー確か、一番目立つパートだよね。

『え? そーだよ? 言わなかったっけ?』

「聞いてません」

 ーーステージに立つ秋月くんは、きっといつも以上にキラキラしてるんだろうなぁ。

「そっかぁ。秋月くん歌うんだね~。全然想像つかないよ」

 ーー歌声とか。

『そう?』

「ん。あ、でも声は通るもんね?」

『ハハ。ありがと。じゃあさ、今度聞きに来てよ?』

「え?」

 ーーそりゃあ、行けるなら行きたいけど。

『チケット渡すからさ。あー……都合良かったら、だけど』

「……う、ん」

 ーー良いのかな。当然生徒たちも何人か来るだろうし。水城さんだって……

『あ、来にくかったらさ。美波さんも呼べばいーじゃん?』
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