ボーダーライン。Neo【上】
 別に連絡を取って、会う約束をしたわけではない。

 でも。あのバーに行けば、バーテンの秋月くんに会えると思っていた。

 珍しく一人きりで来店し、あたしは彼を探した。しかし、秋月くんはもうそこには居なかった。

 後で知った事だが、偶然にもマスターに年齢がばれて、バイトをクビになったらしい。

 ただ会って話したいだけなのに、会えない。あたしは悲しみの感情を紛らわす為に、沢山お酒を飲んだ。

 そして有ろう事か、泥酔したまま秋月くんに電話をかけていた。勿論、記憶を無くすほど飲んでいたので、呼び出した事は覚えていない。

 自室で目を覚ました時、そこに秋月くんがいた。

「ひゃあっ!?」

 ベッドの上だというのを自覚して、あたしは慌てて飛び退いた。

 胸の前でグーを作り、警戒心むき出しに彼を見ていた。

「あ、秋月くん。ななんっ」

「呼ばれたから」

 彼は冷めた口調で答えた。

「え?」

 そしてため息をひとつ吐き出すと、携帯の着信履歴を見せられた。

 ーー本当だ。あたし。秋月くんに電話してる……

 もう深夜になろうという十一時過ぎに履歴があった。

 はぁ、と。秋月くんは眉を下げ、心底迷惑そうに再度ため息をついた。
< 189 / 269 >

この作品をシェア

pagetop