ボーダーライン。Neo【上】
「先生にこんなの訊くのもアレなんだけど」

「おい、奈々っ」

 それまで黙っていた内田くんが、僅かに顔を強ばらせ、口を挟んだ。

「檜に電話が繋がらなくてさぁ。

先生は連絡取ったりしてない、よね? やっぱり」

 彼氏の放つ空気にお構い無く、水城さんは苦笑いして訊ねた。

 あたしは一瞬、え、と眉をひそめるが、してないよ、と笑顔で答えた。

「第一あたしは。前の番号消しちゃったし。自分の番号も変えたから」

「そっかぁ。そうだよね~」

 それほどがっかりした様子でも無かったが、確かに弁当屋で会いたいと言って嘆いていたな、と急に思い出した。

 もしかしたら自分たちの挙式に招待したいのかもしれない。

「っていうか。もう秋月くんは芸能人な訳だし。前の番号自体変わってるんじゃない?」

「あ、うん。奈々たちも最初そう思って」

「つーか、そう言ったのは俺だろ?」

「そうだけど。駄目もとで前の番号に掛けようって言ったのは奈々だし」

 二人のやり取りを聞きながら、あたしは首を捻った。

「繋がらなかったのよね? 番号が変わってるってガイダンスが流れて」

「ううん」

「え?」

 首を振る彼女に、少し顔をしかめた。

「違うの。この番号は使われてません、じゃなくて。電源が入ってないから掛かりませんって言うの」

 掛けた際の、女性ガイダンスを思い出し、水城さんは言う。

「じゃあ。誰か別の人が使ってるんじゃない?」

 気付いた時にはそう口にしていた。
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