ボーダーライン。Neo【上】

 最早人気アーティストとなった彼が、元の番号を残しているとは考えにくい。

 俺もそう思ったんだけど、と水城さんの向こうに座る内田くんは、僅かに屈んだ姿勢を取り、こちらを見て言った。

「番号の入れ替わりってどれぐらいのスパンでされるか分かんないし。

 第一、いつかけても電源が入ってないってガイダンスが流れるからちょっと妙だなって思い始めてて」

「結構しつこく掛けたんだよ??」

 そう言って水城さんは胸の前で両手をグーにする。

 どうしても連絡を取りたい様子だが、とあたしは思案した。

 親友である美波のツテを借りれば、何とかならない訳も無い。

 けれど、その為に自分の名前を出されるのも、と何処か気が引けた。

 芸能人と割り切ってHinokiを見るのは構わないが、秋月 檜としての彼を意識すると、どうしても昔を思い出してしまう。

「諦めるしか、ないんじゃない?」

 あたしはやんわりと言った。

「えぇー」

「ほらみろ。やっぱ仕方無いんだって」

 内田くんはそう言って宥め、彼女の頭を撫でた。

 あたしは困った様に笑い、一応、親心の感覚で訊いてみる。

 恐らくは挙式の為だろうが、何で連絡を取りたいの? と。

 しかしながら。

 水城さんから理由を聞いて、あたしはただただ驚く他無かった。


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