ボーダーライン。Neo【上】
月明かりのみの、暗い自室。
僕は煙草をふかしていた。
窓辺に椅子を置き、立て膝をついた状態で夜空を仰いでいる。
縦に長い長方形の窓から、丸い月を見ていた。
僕は何のために生きているのだろう?
眠れない夜が続くと、ネガティヴに支配されるせいか、ふと考える事がある。
子供の頃からの夢を叶え、今や芸能界で活躍出来ているにも拘らず、私生活は抜け殻にも等しく空っぽだ。
この虚無感が何よりも虚しく、悲しい。
部屋を温めるエアコンの音に紛れて、ヴヴヴ、とバイブ音が鳴り、パーカーのポケットに手を入れた。
【檜、起きてる?】
煙草を咥えたまま、届いたメールを確認し、ふっと口元を緩めた。
時刻は深夜0時を過ぎたばかりだ。
窓の桟に置いた灰皿に、煙草を押し付ける。
そのまま返事を打とうとしたが、手間なので直接通話をタッチした。
「起きてるよ?」
電話に出た相手が喋る間も無く、メールの返事を口頭でする。
『ごめんね? こんな時間に。また眠れないんだね?』
受話口の向こうで、上河 茜は心配そうに吐息を漏らした。
「ん、でもいい。……明日は午後イチだから」
若干くぐもった声になり、僕は気だるさから瞼を閉じた。
茜は少し沈黙を守り、ねぇ、と囁く。
『今から、行ってもいい?』
その言葉にゆっくり目を開ける。
「良いけど。こんな時間に?」
『実はもう。下まで来てるの』
僕は目を見開いた。深夜に、急に、男の部屋に。
彼女の目的が何かを悟り、僕は腰を上げた。