ボーダーライン。Neo【上】
『檜? 分かる? 奈々だよ??』

 その声にやはり笑みを浮かべてしまう。

「うん。分かるよ? 奈々、久しぶりだな?」

 檜~っ、と奈々は泣きそうに答える。

 毎日テレビで見てるよ、と奈々は芸能界での活躍をひとつひとつ数え上げ、嬉々としてその喜びを伝えてくれた。

 高校時代、奈々や内田とは色々あったな、とふと懐かしさに浸る。

 高一の初夏、初めて奈々に告白をされ、付き合う気は無いと軽く断ったのだが。

 どういうわけか、僕は彼女の小悪魔的な魅力と推しに負け、よもやセフレ関係を結ぶという最低な行為をとった。

 そしてそれを終わらせるきっかけを作ったのが、当時から奈々に惚れていた内田だ。

 高二の宿泊イベントで、ある賭けをし、負けたら奈々との関係を終わらせるという、至ってシンプルな内容だった。

 ただ問題だったのは、賭けの勝利条件が当時担任をしていた幸子を惚れさせるというもので、結果は散々だった。

 あの時は幸子を怒らせ、本当に大変だったな、と苦笑がもれた。

『おーい、早く用件言えって』

 不意に内田が急かした。いつの間にか通話がハンズフリーになっていて、二人の声が同じトーンで響いた。

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