AIが決めた恋
そして、旅行から帰ってきても、直ぐには気分が晴れなかった。身近な人には迷惑をかけたくなかった為、私は普段と変わらずに明るく振舞った。
しかし、私の感情に気がついた人が、たった1人だけいた。それが、お兄ちゃんだった。

「なんか、落ち込んでる?」

旅行から帰ってきた次の日の夕方、いつものようにお兄ちゃんとテレビゲームをして遊んでいると、突然そう尋ねられた。

「え、そんなことないよ。」
「嘘。僕の前では嘘つかないでって、いつも言ってるでしょ?」
「嘘なんてついてないよ。」
「旅行先で、何かあった?」
「特に何も無いよ。とっても楽しかった!」

お兄ちゃんは私から目を逸らして、ぼんやりと窓の外の遠くを見つめた。
これはお兄ちゃんがたまにする仕草だ。何か、言いたくないことを言わなければならない時にする仕草だ。

「…スカートは?気に入った…?」

『気に入った。』
笑顔でそう言う予定だった。それなのに、私は上手く笑えなかった。いや、笑えなかっただけではない。ずっと我慢していた涙が一気に溢れ出た。

「ど、どうしたの…!?」

突然泣き出した私に、お兄ちゃんが動揺しているのが分かったが、今更止めることもできず、私は全てを話すことにした。

「折角、お兄ちゃんが買ってくれたのに…、それなのに、私が男みたいで不細工で似合わないから…!」
「どうしてそんなこと言うの?」
「だって、男の子達が、私のこと、男みたいだって!」

そう言ってから気がついた。
私は、この悲しみと悔しさを、誰かに聞いて欲しかったんだ。本当は、何でもないふりをして、抱えているのが辛かったんだ。
お兄ちゃんは、私の頭を優しく撫でた。

「そんなことない。藍は昔から、とっても可愛くて素敵な女の子だよ。」
「そんなの嘘…。」
「嘘じゃない。その男の子達と僕、どっちの方が信頼できる?」
「それは…、お兄ちゃん。」
「でしょ。」

お兄ちゃんはずるい。こんな励まし方はずるい。こんなことを言われたら、私もちゃんと女の子なのだと認めざるを得ない。
お兄ちゃんは、いつも私に自信をくれる。そんなお兄ちゃんを私は尊敬している。
私もいつか、こんな風に誰かを励ませるようになりたい。その時、強くそう思った。
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