御曹司は箱入り娘を初夜に暴く~お見合いしたら、溺愛が始まりました~
待って待ってと心に嵐が吹き荒れるが、透さんの力強い手に押さえられると肩の力は抜け、目蓋は甘く閉じていき、キュッと唇を結ぶ。

やがてふわりと触れるだけの優しいキスが唇に落とされ、お酒を飲んだときのようなくらくらとした目眩がした。

「終わったよ、沙穂ちゃん」

目を開いてボウッと彼を見つめ、困惑とも放心とも言えない不思議な心地で動けずにいた。

「透さん……」

聞きたいことも、言いたいこともたくさんある。でも今、私は人生で初めて、男の人とキスをしてしまった。しかも一番好きな人。叶うことのない恋の相手。

そして次の瞬間には、どっと罪悪感がわいてきた。
透さんとキスをしていいのは私じゃない。

もしかして透さんも私と同じ気持ちなの?と一瞬だけ期待をした一方、あの手紙に綴られていた美砂への真摯な想いが呼び起こされる。

あの手紙はいわば物証なのだ。そうでしょう? 透さん。

「ごめんね、ありがとう。寝ようか」

彼は消えるように微笑んでから、私の頭を撫で、一緒にベッドに横になった。
透さんはそれ以上はなにも言わなかった。美砂のことがあるからだろう。私もそれは同じだったから、なにも聞けずに、目を閉じた。
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