夜空に見るは灰色の瞳
「おかえりなさい、叶井さん」
「…………」
洗面所のドアを開けた体勢のまま、しばし固まる。
ドアを開けて一番に目に入る鏡に、いつかのように、男の姿が映っていた。開けた瞬間、その灰色の瞳とバッチリ目が合った。
今日も今日とて、見える範囲の服は黒っぽい。
「……また勝手に繋いだんですか」
「外でずっと叶井さんの帰りを待っているより、こっちの方がいいのではないかと思いまして。あっ、そっちに行ってもいいですか?」
「……いいって言う前から来るのってどうなんですか」
“こっちの方がいいのでは――”の辺りで、男の顔は既に鏡から飛び出していた。
「ちょっと先走ってしまいました。それじゃあお邪魔します」
どうせダメだと言っても来るのだろし、というかもう顔が来てしまっているし、諦めてため息をつきながら脇に避けると、男は「よっ」とか「ほっ」とか言いながら、洗面台をまたぐようにして鏡から出てきた。
何度見ても、窓から侵入してくる泥棒のようだ。とても魔法使いには見えない。