夜空に見るは灰色の瞳
「前に、女性の寝室を覗く趣味はないって言いませんでした?」

「もちろん、こっそり覗き見る趣味はありませんよ。この場合は、用事があるから入るんです。だからこうして、許可も取っているじゃないですか」

「いいって言ってないんですから入らないでくださいね!」


私が前を歩いているとはいえ、気を抜くと私を追い越して勝手に寝室に向かってしまいそうなので、後方に充分注意しながら進む。


「でも叶井さん、マットレスが新しくなったら、寝心地がだいぶ変わると思いますよ。朝の目覚めも変わってくるかと」

「その手には乗りません」

「でも、前から欲しかったんですよね?と言うことは、今お使いの物はかなりくたびれているのでは?」


くたびれているとは失礼だが、確かに買った時よりはだいぶ薄くなっている。


「……その手には乗りませんからね」

「他の物には一切手を触れないと約束しますよ?」

「それでも――」

「何なら、ドアさえ開けてくれたら、こちらの部屋からでも出来ないことはないですよ。物さえ見えていたら」

「…………」
< 128 / 263 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop