日常(仮)
私が寝ている間にていらにもしたという、はやとの話を聞かせてくれた。
驚いたし、なんて言ったらいいのか、わからなかった。

途中、はやとが何かを言いかけたタイミングで、ていらが急に「ねえ!」と話しを遮ったタイミングがあった。
はやとが何を言おうとしたのかわからないままだったが、この時はいろんな驚きがいっぱいで、あまり気にしなかった。

「じゃあ、私の思い込みで今日こんなに悩んだの?」

「俺は、お前になにがあったか知らないよ。」

急に肩の力が抜けた。
あんなに怖くて、不安だったのに。

「こころ、勇気だしてよかったね」

ていらが満面の笑みでそう言う。

「ていら、知ってたなら教えてよ。」

「こころが自分で聞くから意味があるんじゃん」

本当に不安だったし、とても怖かった。
けど、ていらの言う通り逃げないで勇気を出していたら今回のことはもっとはやく解決していたのかもしれない。

「ごめんね…、はやと。」

「いいよ、許す。これからは仲よくしような、ここ…あ!」

二っと笑うはやと。

「ありがとう。」

はやとはぎこちなく「ここあ」と呼んだ。
はやとは自分の過去を話してくれたのに、私は自分のことを隠したままでいいのだろうか。

「みんなのところに行くか、」

「こころ、ありがとうとごめんなさいするんだよ」

「…うん。」

「どうした?」

はやとが私の顔を見る。

「正直、よくわからないの。どうして、みんなが私を心配するの?」

今まで、私がいなくても心配なんてされたことがない。
誰も私を探そうとなんてしなかった。
私がいないときのほうが、みんな楽しそうにしていた。

「じゃさ、ていらがいなくなったらどうする?」

「探しに行く」

「なんで?」

「ていらは、唯一の家族よ。いなくなったら心配だし不安。どこかに連れて行かれちゃったのかと思う。」

ていらがいなくなるなんて不安でたまらない。

「一緒だよ。施設のみんなが心愛に対してそう思ってるから、探してくれる。だから、心配かけて不安な思いさせてごめんなさいと大切に思ってくれてありがとうを伝えるんだ。」

「私、大切に思われてるの?いてもいいの?」

「当たり前じゃん。だから、俺は探しに来たんだよ。みんなも。」

ものすごく泣きたくなった。
あの時と違う。ぽかぽかした気持ちがあった。

「ありがとう。」

泣きたい気持ちとは逆に自分が笑っていることに気づいた。

「こんなに可愛いこころ、久しぶりにみた。」

ていらがそうつぶやく。
笑ったのなんていつぶりだろう。

「ほら、行くよ」

はやとが私の手をとって、扉のほうに向かう。
教会の扉を出たら、私の世界は変わってるんじゃないかと思えた。
もちろんいい方向に。
私の手を握るはやとの手はあたたかくて、もう少しこのままでいてほしいと思った。
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