日常(仮)
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「え、なんで。え、…私すごい寝てたじゃん、え…」
最悪だ。
私、泣くだけ泣いてそのまま寝ちゃったんだ。
しかも、なんではやとがいるの。
ああああーーーーもう、なにしてんだ自分。
「寝て起きるなり忙しいやつだな。」
「ていら、」
ていらはすぐそばにいた。
ていらを抱き上げる。
良かった、そばにいたことがわかっただけでものすごく安心した。
「もう、心配しないで。ちゃんと、ここにいるから」
「そろそろ、みんなのところに行かないと。こころがいないって心配してたから。」
はやとが扉に向かって歩き出す。
「なんで?」
「は?」
「なんで、私がいなくてみんなが心配するの?」
わかんない。なんで?
心配する理由がどこにあるの?
きょとんとしている私にはやとが近づいてくる。
「こころ、「こころって呼ばないで。」
近づいてくるはやとに対して、私は後ろに下がった。
「なあ、俺なんかした?言われないとわかんないんだけど、」
わかんないんのは、私のほうよ。
「…「心愛」。私たち以外の人には「こころ」の名前は秘密なの。」
そうだよ。私たちだけ。
「こころ、聞きたいんでしょ。なんで、こころの名前を知ってるか。ちゃんと、はやとに言わないとわかんないままだよ。」
ていらが私の顔を見上げる。
「私たちがやったこと知ってるからでしょ。あの事件のこと、誰かに聞いたんでしょ、」
「あの事件、?なんの話だ?」
「とぼけないでよ、あの施設でのこと聞いてなかったら「こころ」の名前知るわけがないじゃん」
怖い。怖い。怖い。
ちゃんとなんて聞きたくない。
今までだって、何を言われても聞こえないふりしてきたのに。
面と向かって「化け物」なんて言われたくない。
「こころ、もう逃げるのはやめよう。」
「…どうして、「こころ」って呼ぶの…」
そう一言だけかすれるような声で言った。
「倉庫部屋で、ていらがお前のこと「こころ」って呼んだから。「こころ」って名前なんだと思ってた。
けど、みんながお前のこと「心愛」って呼んでて本当はどっちなのか、わかんなかったし、俺が聞いたのは「こころ」だったからそう呼んでた。」
「え、…」
ていらが「こころ」って呼んだ?
なんで?え?え?え?
「ていらの言葉がわかるの…?」
私は顔をあげて、まっすぐはやとを見た。
同じように、はやとも私をまっすぐに見ている。