日常(仮)
「今日はいろんなことがあったね」

就寝時間の少し前に、ていらと倉庫教室に来ていた。
みんなといる時間はとても楽しかったけど、こうしてていらとゆっくり話せる時間も必要だったから。

「いいことばっかりだったでしょ」

「確かにいいことばっかりだったけど、同じくらい驚いたよ」

はやとが、私以外の誰かがていらの言葉がわかるなんて思ってもいなかった。
それにみんなとこんなに話せる日が来ることも想像していなかった。

「今日、はやととちゃんと話したばっかりなのに、たくさん助けてもらった」

この教室にはやとが来て、はやとと話して、私の世界が大きく変化した。

「ちゃんと、ありがとうってお礼言わなきゃね」

「うん。」

なんとなく、もうはやとに会いたかった。

ーーーーーガラッ

「やっぱり、ここにいんのかよ」

「なんで?」

この教室の扉を再び開いたのは、はやとだった。

「女子が心愛のこと探してた」

「わかった…。」

「なんかあった?楽しそうだったけど、ここにいるから。」

もしかして、心配してくれてるのかな。

「今日ね、はやとのおかげですごく楽しかったよ。それに、みんな仲良くしてくれた。
いろんなことがありすぎて、ていらとゆっくり話したかったからここにいたの。」

「そっか。なら良かった。」

そう言うはやとの顔を見ると、やっぱりすごく安心感がある。
心穏やかな気持ちになる。
なんて表現したらいいんだろう。
もっと、はやとのことが知りたいし、私のことも知って欲しい。
もっと一緒にいたい。

「私たちね、最初の施設で「化け猫」と「化け猫に憑りつかれた子」って呼ばれてたんだ。ほかの施設でもいろんな呼び方されてた。

けど、ひそひそ話でそう呼ばれてるのなんて気にしなかった。ていらと一緒だったから。

けど、ある日突然、大人たちがていらを檻に閉じ込めてどこかに連れて行こうとしたの。お祓いするんだって。やめてって何回もお願いしたのにやめてくれなくて、大人たちみんないなくなればいいと思った。

そしたらね、急に窓ガラスが割れたり、ていらを閉じ込めようとした檻がぐちゃぐちゃになったの。

その日から「化け物」って呼ばれた。どこに行っても私たちと仲良くしてくれる人なんていなかった。

別に良かったんだ、ていらと一緒なら。
だけど、ていらと一緒にいられなくなることが怖いの。また、あの事件みたいなことが起こるのが怖い。
みんなが私たちを嫌いなら関わらなくていいと思った。ていらと離されるきっかけになるなら、誰とも仲良くしない。

そう思ってた。」

こんな話、一生誰にもしないと思ってた。
話して、はやとにまで化け物って思われて施設のみんなに知られて、ここにいられなくなっても聞いてほしいと思った。

初めてだった。
ていら以外にそばにいて欲しいと思えた相手は。

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