もう二度ともう一度

「約束」

 もう夏休みが近くなって来ていた、学校での生活はなにも変わらない。早川は夏休みになったらしばらく休めると安堵していた。
 それほど精神は擦り減っている。同じ事を体験するのは、結構辛い事なのだろう。
 いつも、野々原あずさへの気持ちを、自分の心を殺し続けていた。


『彼女を、あるべき本来の場所に行かせてあげなければ』

 早川はそう、考える様になっていった。もうあの時の自分じゃない、堂々と彼女を愛する事は出来る。しかし、そんな自分さえいなけば彼女は未来で夫を持ち子供を生み、幸せに生きていた世界があった筈だ。



「ね、夏休みってなにかあるの?」

 そんな自分の気持ちを知る由もなく、当直が同じ野々原は出席簿を早川に持たせて、付いてくるだけ職員室に向かう中で言った。

「いや、なにも・・」

「そっか、部活やってないもんね。アタシもだけど」

 部活が無いとは言え、今の早川はまたトレーニングと勉強ばかり。それから母親の手伝いに明け暮れているのだろうが。

「野々原はなにかやりたい事、あるの?」

「やりたい、て言うか行きたい!かな?」

 早川は、彼女が行きたい所の検討が付かなくてそれを聞いた。

「ん?・・海」

「水着は、あるの?」

 この学校にはプールがない、だから水着を小学校以来買ってない生徒は多い。

「え?持ってないよ、ねぇじゃあどんなのがイイ?」

「際どいビキニなら、海ぐらい連れて行ってやるさ」

 そう早川が言うと、軽く叩かれた。二人が約束した日はそれから三週間ほど先だった。
 早川は、自分が一貫性を保てない弱さを、少し憎んでいた。
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