もう二度ともう一度

「姉妹」

「あ、おかえりなさい。あの、早川くんは?」

 その部屋に居たのは、なんと野々原あずさだった。彼女は部活がある他の二人に気を使って、別の買い出しを手伝っていた。
 出来れば、三人で少し話せる機会もあるかと考えたが、目当ての早川は早々離脱してしまった。

「あっちゃん、ありがとう。助かったわ・・あ、布団入れるの、手伝ってね?」

 表情からするに、早川は帰って行ったと言う事だ。それから高見真知子と野々原あずさは二人で布団を部屋出へ仕舞い込んだ。

「ごめんね、上がり込んじゃって」

 歯ブラシだの、そう言うモノを買い揃えて来た野々原は、徒歩の二人より早く着いていた。
 高見真知子は予めカギを渡していた。

「ううん、頼んだの私だから気にしないで。今お茶淹れるから」

 壁に飾られたお洒落なカップを、湯煎で温めた。美味しい紅茶だと自慢しながら。
 しばらくして、紅茶を挟む二人。会話はなんとなく難しかった、どうしても早川の話題を出してしまうし、またそれしか二人には無いからだ。

「あっちゃん、早川君・・好きなの?」

 野々原は紅く頷いて、そして同じ質問を返す。

「そうね、私はもう何度もフラれたけれど・・」

「え?でもなんで?高見さん、凄い綺麗だし、人気あるのに・・」

 事実、男子生徒からは断トツの支持だと言えた。野々原は自分が勝てる要素は無いのではとすら思うくらいだ。

「あっちゃん、人が人を好きになるのは立場や能力は関係ないのよ」

 自分より、先に彼は野々原と出会ったと冗談混じりに牽制し、彼女はそう答えた。
 見えない部分で負けた。そう言いたい。挙げ句に早川はそもそも自分から眼を背けてばかりだ。

「あ、あの・・こんなに仲良くしてくれてるのに、アタシ、ごめんなさい・・」

 珍しく弱気に見える野々原だが、高見真知子には彼女が見た目や日頃の言動とは裏腹に、本質的になにか弱さに似た優しさを持つ事を感じていた。

「いいわよ・・だって私達、宿命のライバルですからね」

 そう言うと、高見真知子はなんとも無邪気に笑った。
 
 高見と野々原はその後、静寂の中にいた。それでも、二人に緊張は無かった。
 なんとなく、姉妹の様にすら感じる。人の集団など、目的さえ揃えば共感は自然と生まれて行くモノなのかもしれない。

「あ、私そろそろ帰らなきゃ」

「そう?あっちゃん、内緒だけど私は一人暮らしだから、いつでも気軽に来てね?じゃ、気をつけて・・」

 そう聞いて驚いた。どこか謎めいた少女ではあるが背景が読み取れない。
 実際は、高見真知子が今の状態になり、早川を探してこの街に強引にやって来た。
 そこら辺り、他人は知る由もないのだろう。

「うん!ありがとう」

 野々原あずさが自転車で消えて行く。窓に指を絡めて、高見真知子はそれを遠い目で見つめていた。

「後は、勇気だけよ・・」

 ポツリと呟いた言葉、それは誰に向けられたエールだろうか。
< 24 / 43 >

この作品をシェア

pagetop