もう二度ともう一度

「母と子」

 すぐさま、取り憑かれた様に家探しをする。財布だのなんだの、なにを探すにも勝手が利かない。

「現金は三千円ちょっと、通帳にはあるか?」

 郵便通帳には、3万円と少し。それは精々がカードで下ろしたら手数料で無くなる程度の小銭がある様だった。

「やった!とりあえずこれだけあるなら、明後日で」


 その時、足音がした。ここは集合住宅だから隣人かも知れないが、その音の主が誰だか早川には察して取れた。

「この足音、おふくろだろ」

 そして、扉は開いた。それと同時に、怒声が飛んできた。
 食事は食べていない、部屋はぐちゃぐちゃ。夜になろうかと言う時間にも掛からわず、あの日の母が声を荒げていた。

「あ・・スマン、すぐ片付ける」

 早川はそれだけ言うと、引っ張りだしたモノを片付け出した。

「お、おふくろだ・・」

 生きている。そう確認したら少し懐かしい部屋の中が滲んだ。母親が疲れと怒りを流しに風呂に入る間に食事も流し込み、食器も洗った。

「こんな遅くまで?」

 もう9時過ぎだ。記憶では昼は工場で、夜はスーパーの掃除婦だった。

「そうだよ!お母さんだってがんばってんだから、アンタも・・」

 早川は冷蔵庫を開けて、彼女がいつも飲んでいたビールを取り出して静かにテーブルに置いた。

「見てろ、これからは俺がおふくろを守ってやる」

 それだけ言うと自分の寝床で布団を被った。そう言われた母親はテーブルに肘を付いて思春期の難しさにため息を漏らした。
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