もう二度ともう一度

「今走り出す時」

 日が暮れて行くのはまだ早い時期、暗くなったグラウンドに早川は忍び込んでは走っていた。

「う〜ん、なんかカーブだと落ちるんだよなぁ」

 過去、直線であれば13秒半ば。現在は12秒前半まで達している。しかし、コーナリングの難しさに煩わされて記録は伸びなかった。

「よぅ、早川練習してんのか?」

「ああ、うん。でもなかなか回ると難しくてな!」

 声を掛けられてもサッと名前が出て来ないが陸上部の子だ、覚えてる。もう二十年前だし仕方ない事だが。

「ああ、そりゃフォームが・・なんつーかなぁ?頭を水平にしないから三半規管がどーたらでさ、まぁ顧問の受け売りだけどよ」

 そう言うと、陸上部の少年は別れの挨拶をして帰って言った。
 名前は失念したがその背中は良く覚えてる、何度か一緒に走っていた背中だ。勝てた事は一度もない、そんな事は良く記憶していた。

「そっか、頭か・・」

 そう言うとまた早川はぎこちないフォームで走り出した。自分では気づいていなかったが、薄暗さからかコースを少し大回りしている。
 ただの運動会と言ってしまえばそこまでだが、彼は大袈裟などではなく運命を変える為に、今走っていた。
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