二人の距離~やさしい愛にふれて~
突然の訪問
それから更に季節は過ぎて暖かい春になった。
最近ようやく恭吾は辛いとか苦しいとかの感情が湧き上がって来なくなってきていた。

そんなある日の昼過ぎ、思いもよらぬ人から着信がある。

『もしもし、久しぶり。今電話いいか?』

久しぶりに聞く陽斗の声はどことなく緊張感が漂っていた。

「はい、大丈夫ですよ。本当に久しぶりっすね。」

『あぁ、突然悪いな…。あの、さ、こんな事恭吾に聞くのもおかしいんやけど…理花、知らんよな?』

「えっ?理花?どうかしたんですか?」

『それがさ、おらんのよ…。朝出掛けたっきり戻って来んくて…』

気まずそうな陽斗の声を聞きながら恭吾の背中に冷たいものが走った。

「えっ?理花、いなくなったって…一人で出掛けたんですか?」

『あ、あぁ、最近はよく一人で出掛けたりしとったんよ。買い物とか図書館とか。でもどこにもおらんで…たぶんある程度のお金持ち出したみたいで…もしかしたらそっちに行ってないかと思ったんよ。』

「いや、それはないっすよ…。俺に会いたくないだろうし…。」

『それがさ、理花、本当はまだ恭吾のこと好きなんよ。ただ…汚れてしまった自分は恭吾に相応しくないって思っとって…でも昨日恭吾に会いたいって泣きよったけん…』

恭吾は陽斗から打ち明けられた真実に周りの雑音が消えた。陽斗の声とそれをかき消すような耳鳴りが鳴っていた。

「そ、んな、理花のために俺は…」

『今更ごめん、口止めされとったし…もしかしたらそっちに行くかもしれんけん、そしたらすぐ電話して。こんな事に巻き込んでごめんな。』

「わかりました。俺も理花を探してみます。もしそっちにいたら連絡下さい。」

恭吾は陽斗からの電話を切ると慌てて大学を出た。
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