冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
そんな時いつも偶然居合わせるのが、ひと目でオーダーだとわかる上品な三つ揃えのスーツを着た好々爺――櫻衣鶴山さん、その人だ。

『坊や、ひとりかね? 私も君と同じく一人でな。良ければ一緒にお茶にしよう』

お喋り好きで買い物が長い妻を待っているのだ、と鶴山さんは笑った。
そのうちに外商を通して連絡先を交換する機会があり、偶然のお茶会は計画性のあるものに変わる。

『鶴と鷹。君とは深い縁を感じるな。私にも孫がいたら、こんな気持ちになるのだろう』

鶴山さんはまるで本当の祖父のように俺に接し、可愛がってくれた。
菊永家の内情を知り、小学校低学年の俺がひとりで長期休暇を過ごさぬようにと、櫻衣家に招いてくれたこともある。


そんな鶴山さんにも、本物の孫が生まれた。彼女こそ、澪だ。
当時、息子である広海さんは櫻衣商事九州支社の代表取締役を務めていたので、忙しい鶴山さんが孫に会える機会は無い。

『写真ではこんなに元気だが、澪は生まれつき体が弱いそうだ』

彼は九州から届いた赤ん坊のアルバムを俺に見せながら、寂しそうな顔をする。
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