冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
『私のあったかいのを、お兄さまにお分けしようと思って』

真剣な表情で言う彼女は、あたかも念じるようにぎゅっと力を込める。

『冷たいと、私みたいに風邪をたくさんひいちゃうから。風邪をひくと冬休みも楽しくないの。でもこうしたら、お兄さまの手もあったかい。半分こは、お互いを幸せにできる魔法なの』

その言葉に思わず瞠目する。

幼い頃、お母様の命を吸い取りますと叩き落とされた氷のように冷たい手を、誰かがこんな風に、あたたかく包んでくれる日がくるなんて……想像してもいなかった。

だから、だろうか。頬にぽつりと、一粒の涙が落ちる。

『そうか。……俺は、幸せものだな』

涙を隠すよう、精一杯微笑んだつもりだったが……果たして上手くいっただろうか。



その後、彼女の体に障らぬよう、俺はすぐに部屋をあとにした。

彼女の部屋があった三階から螺旋階段を降り、鶴山さん達が待つリビングルームへ向かおうとした時。
ふと階下から、『菊永の』という言葉が聞こえて立ち止まる。
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