冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
その声音が剣呑だったので、自分が何か櫻衣家にとって無礼な振る舞いをしてしまったのだろうか、と一気に不安になった。
盗み聞きなんてしたくなかったが、どうせ声が聞こえる場所を通らなくてはならない。声の主達が去るのを待つしかないだろう。
全て無視して彼女達の眼前を突っ切れば良かったものを、当時の俺は大人の俺であれば絶対にしない選択をした。
『病気がちなお嬢様に、菊の花をプレゼントするなんて……菊永家のご子息は何を考えていらっしゃるのかしら。不吉よね。あの浮世離れした美貌に琥珀色の目も相まって、悪魔みたいだわ』
そして案の定、まるで頭から冷水を浴びせられたような感覚に陥ったのだ。
『菊永家はお嬢様が亡くなられてから、お婿さんしかいらっしゃらないでしょう? お坊っちゃまは、実のお祖父さまとお祖母さまにも疎まれているそうだから、礼儀作法の教育が行き届いていないのよ』
噂好きな家政婦たちの心無い言葉の数々に、体が小さく震える。
『もしかして確信犯だったりして。だって、櫻衣家のご当主には本物の孫のように可愛がられていたから。お嬢様への当てつけか、嫌がらせじゃないかしら』
違う。そうじゃない。俺はただ――!
盗み聞きなんてしたくなかったが、どうせ声が聞こえる場所を通らなくてはならない。声の主達が去るのを待つしかないだろう。
全て無視して彼女達の眼前を突っ切れば良かったものを、当時の俺は大人の俺であれば絶対にしない選択をした。
『病気がちなお嬢様に、菊の花をプレゼントするなんて……菊永家のご子息は何を考えていらっしゃるのかしら。不吉よね。あの浮世離れした美貌に琥珀色の目も相まって、悪魔みたいだわ』
そして案の定、まるで頭から冷水を浴びせられたような感覚に陥ったのだ。
『菊永家はお嬢様が亡くなられてから、お婿さんしかいらっしゃらないでしょう? お坊っちゃまは、実のお祖父さまとお祖母さまにも疎まれているそうだから、礼儀作法の教育が行き届いていないのよ』
噂好きな家政婦たちの心無い言葉の数々に、体が小さく震える。
『もしかして確信犯だったりして。だって、櫻衣家のご当主には本物の孫のように可愛がられていたから。お嬢様への当てつけか、嫌がらせじゃないかしら』
違う。そうじゃない。俺はただ――!