冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
彼が土鍋の蓋を開けると、湯気とともにトマトと椎茸のスープの香りが立ち上る。
どうやらトマトと椎茸を煮込んで、溶き卵を落とし、青しそを散らした洋風おかゆのようだ。

彼はクールな澄まし顔で土鍋の中に陶製のれんげを入れて、おかゆをひとくち分だけ掬う。
ふうふうと優しく息を吹き掛けて多少冷ましたあと、なぜかこちらへ差し出した。

「えっと? これはどういう……?」

まさか、彼は私に食べさせてくれようとしているのだろうか。
でも違った場合を考えると、安易に唇を開くのは恥ずかしい。

窺うようにおずおずと上目遣いで見つめると、彼が首を傾げる。

「あれくらいのキスで腰が抜けていたから、手が震えて食事もひとりで摂れないんじゃないかと」

「なっ。だってそれは、その、キスが初めてだったからです! それなのに、それなのにあんなに上級者のキスをされたから……」

そう告げたところで、彼の熱い唇の感触が思い起こされ、頬が再び熱を持つ。

「なるほど。気持ちよくなって腰が抜けたのか」

「ち、違いますっ」

ああもう! どうして意地悪な言葉ばかりを言われなくてはいけないのっ。

「二年間も待たせた挙句、三年目にはひとり暮らしを始めようとする〝世間知らずな箱入り令嬢〟をどう躾けてやろうかと思っていたんだが……初心すぎるのも考えものだな」
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