冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
大人の色気たっぷりに目を細めた彼はくつくつと面白そうに笑うと、「ほら」と再びこちらへれんげを差し出す。

「もっと気持ち良くなるキスを教えてやりたいところだが、まずは先に食事をしてくれ」

「……っ」

もっと気持ち良くなるキスなんて、教えてもらわなくても結構です!
そう言い返せたらいいのに、羞恥心のせいで唇ははくはくと動くだけで何も言葉にしてくれない。

むしろ変に胸がドキドキして、なんだか苦しい。 
私は耳の先まで真っ赤になっているのを感じながら、下唇をきゅうっと噛んだ。

もしかしなくても、私が二十五歳にもなって〝お子様〟だと揶揄われてる?
それとも、常識知らずな無礼者だって叱られてるの? ううん、そのどちらもかも。

昨日までは唐突に政略結婚の話を知り気が動転していたせいもあって、『縁談を円満にお断りできたら……』なんて考えていた。

今にして思えば、櫻衣商事を救ってくれようとしている方に対して、確かに恩を仇で返すような無礼を働いている。

だからこそ、ここまでしてもらうのは気が引ける。
いくら宗鷹さんが政略結婚相手で未来の夫になる男性と言えど、だ。

私は貝のように口を閉じたまま、おずおずと彼を見上げる。
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