冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
「世間知らずの箱入り令嬢を娶ると決めた時から、君には何も期待していない」

「うっ。今の言葉、胸にぐさっときました。それってもしかして最初から、私は何も期待されていないって意味ですか」

「ああ。君に期待するものは何もない」

一度ならず、二度までもはっきり言われてしまった。あまりにもはっきり告げられたせいで、傷つく余地すらない。

……こうなったら隠れて修行ね。家事を頑張りまくって見返してやる!
密かに闘志を燃やしながら、心の中でぐっと握り拳を作る。

「ほら、目を閉じろ」

「へっ? わ、わかりました」

宗鷹さんは無愛想に言うと、私がぎゅっと瞼を閉じたのを確認してから、絞ったタオルを私の目元に乗せた。
下克上を誓っているのがバレたのか? と思ったが違ったらしい。

「わ……。あったかい……」

ホットタオルだ。四十度くらいの温度に温められたタオルが、じんわりと目元の筋肉をほぐしていくのがわかる。

「隈が酷かったからな。これくらいの温度のホットタオルなら、逆上せる心配もないし体調にもいい」

「気持ちいいです。ありがとうございます」

鼻腔をくすぐる蒸気から微かに漂う樹木や柑橘を思わせる芳醇な香りが、体の奥から不安や心配を浄化していくみたいに感じられる。
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