冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
「そのつもりだ。医者から今夜はよく見ておくように言われているから、一応な。こちらの都合は気にせず、君は眠ってくれ」

「そう言われても……」

心配してくれるのは、ちょっぴり、その、嬉しいけど……って、何を考えているんだろう。

「わかりました。おやすみ、ないさい」

「ああ。おやすみ」

そう言って別れを告げてから、二時間くらいが経過した時。コンコンと扉を控えめにノックする音が聞こえた。
壁に掛けられた時計は二十三時三十一分を指している。

……もうこんな時間。これ以上彼に手間をかけさせちゃ駄目だ。
そう思って、意を決してノックに応えず寝たふり作戦を決行する。

宗鷹さんは応答が無いのを確認してから静かに入室すると、「ようやく眠れたみたいだな」とほっとした声音で呟く。そしてそのまま、ベッドに腰掛けた。

ゆっくりとスプリングが軋み、わずかに私の体がシーツの海に沈む。
キングサイズのベッドだというのに私のすぐ側に腰掛けたらしい彼を、つい意識してしまう。
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