冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
あたかも安静に寝ているかのごとく寝たふりを続行するのは、なんというか至難の業だ。
……ここは心の中を穏やかに保つために、子守り唄でも歌うしかない。

ねーんねん、ころーりーよー。おこーろーりーよー。
自分を寝かしつけるために胸中で必死に大合唱する。

ぎゅっと目を瞑っていながらも、そんな大惨事に見舞われている私の額に、そっと男性らしい骨ばった長い指先が触れた。

ひゃあっ!? な、なに……?

顔にかかっていたらしい前髪を、その指先が額を撫でながらゆっくりと払い除ける。

どうして、彼にこんなに優しく触れられてるの……?

指先は輪郭をなぞった後、耳元を擽り、ふっくらとした唇の弾力を確かめるように這わされる。
想像もしていなかった接触に戸惑い、羞恥心で頬が痺れて瞼や唇がむずむずしてくる。

瞼を閉じているせいか五感が研ぎ澄まされていたせいか、瞼の裏には宗鷹さんの端麗な相貌や悪戯っぽい甘い声、それから太ももを撫でられた時の彼の手の感覚、そしてあの熱く強引な口づけまでもが浮かんできて……なぜだか、体中がドキドキとして熱くなった。
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