クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 父にそう急かされるまで、レティシアは言葉を発するのが遅れた。すっかりレティシアは彼に見惚れてしまっていたのだった。
『初めまして。ランベール。これからよろしくお願いしますね』
 ハッとして慌てて挨拶したその声も上ずってしまっていた。
 一方、紹介された彼は、騎士らしく儀礼的に挨拶をした。
『お初にお目にかかれて光栄です。レティシア王女殿下。今後は私があなたを側で必ずお守りいたしますので、どうかご安心ください』
 なんて素敵な声だろう。ランベールの声を聞いて、レティシアはたちまち舞い上がり、胸を高鳴らせた。低くて落ち着いた声は柔らかさがあって、すべてを包み込んでくれるような穏やかさに満ちていた。
 すべてが完璧で、レティシアが幼い頃に絵本で読んだことのある、お姫様を守ってくれる理想の騎士そのものだった。
『レティシアのことをよろしく頼む』
『御意のままに』
 ランベールはレティシアの父である国王フリードリヒ二世をとても尊敬しており、そして国王もまた彼を信頼していた。
 王族の女性は十六歳を迎えると同時に結婚が可能になる。グランディアス王国の王族は国王、王弟、王女の三人しかない。大事な王位継承者のひとりである彼女を守るために、父は護衛をつけたのだ。
 その頃から、グランディアス王国を囲っている諸外国の動きが少しずつ変化の兆しを見せていた。何かがあってもおかしくないと危懼していたのかもしれない。或いは、国王は自分の死期を悟っていたのかもしれない。
 それから程なくして国王フリードリヒ二世は崩御した。つぎに国王の座に就いたのは、王位継承順位第二位の立場にある王弟カルロスだった。王位継承順位第一位の彼女が女王になるには時期尚早だという理由だ。女王となった彼女を傀儡にして国を乗っ取ろうと企む者がいるかもしれない。そういう懸念も考えられたらしい。
 父が亡くなった悲しみに暮れる日々にも、ランベールはレティシアの側にいて支えてくれた。遠征任務の帰りには、野に咲く花を持ってきてくれた。彼はいつも彼女に献身的だった。
 寡黙だけれど、どうしたらレティシアの心が宥められるか、常に考えていてくれるのだ。
『悲しいときは、こっそり涙を流すくらいは許されますよ。そのとき、私は必ずあなたの盾になりましょう』
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