イジメのカミサマ
動揺して両手を後ろに隠す暦に私は歩み寄る。

「暦、志乃のキーホルダーをどこに隠したの?」

「隠したって何のことよ。私たちはあの子のキーホルダーを探しに来たんでしょ?」



またとぼけるつもりなのね……私は暦に近づき、彼女の汚れた手を掴んだ。そんな私を見て、暦は本当に驚いた様子で見つめ返す。

「加奈どうしたの? もしかして今度こそ記憶が戻ったの?」

「……違う。完全じゃない」

「うん、そうよね。もし戻ったのだとしたら絶対に――あなたは誰かの為にこんなことしない」



一瞬暦の瞳に怒りの色が浮かび、私は彼女を見つめる。

「やっぱり……暦は私の過去を知っているんだね。それもかなり詳細に」

「そうかもね。だけど教えない。だって私は誰かをイジメるのが大好きだから」
彼女は私の手を振り払い、口元を歪ませて笑った。

「そして今からはあなたも標的よ、加奈。そうしなきゃきっと私の本気は伝わらないから」

「それはどういう意味? 暦は一体どこまでこの世界の真実を知っているの?」

「さあね。でも一つだけ教えてあげる。今更あの泣き虫女を庇っても無駄よ。あの子は単なる操り人形に過ぎないんだから」

「志乃のことを言ってるの? それって操り人形ってどういうこと⁉」



だけど暦はそれを無視してシニカルに笑って……刹那、彼女の周囲が歪んで黒い穴が現れる。

暦は自らバックステップを踏んでその中へと吸い込まれていった。

「暦!」



私の叫び声は虚しく木々の隙間に木霊する。

暦を止めなきゃ。さっきの話と言い、今の異能と言い……もしかしたら彼女はこの世界を統べる神の様な存在なのかもしれない。

真っ向から挑んでも絶対に勝てない。だったら、別のやり方で暦の思惑を挫くしかない。

彼女は志乃のキーホルダーを隠した。なら、それを見つけてしまえば彼女の目的を阻止できるかもしれない。

私は素早く辺りを見渡し、地面に薄っすら残る足跡を見つけた。暦は私がこんなに早く来ることを想定していなかったから、隠した痕跡を残す時間がなかったんだ。

予想通り、私が足跡辿って進んでいくとすぐに大きな木の根元に辿り着いた。地面が微かに盛り上がっていたので、私は素手でそれを掘る。



遂に掘り出したクマのキーホルダーは……ナイフでズタズタに引き裂かれていた。
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