イジメのカミサマ
モノクロノツイオク
一人屋上に取り残された私は、ゆっくりと空を仰いだ。

時計の針は相変わらず時を刻み続けていて、立ち込める雲は少し赤くなっている気がする。

「……行かなくちゃ」



私は重い体を引きずって立ち上がる。

暦の言葉通りなら、私は自分の力で記憶を取り戻さなきゃいけない。

その答えはきっと、この場所のどこかにあるはずだ。

屋上から再び校舎内に戻ると、血の色をした足跡が点々と廊下に続いていた。

ここまで親切に導いてくれるなんて、どうやら時間がないのは本当みたい。

私がそれを辿っていくと、やがて足跡は教室の中へと入っていった。

足跡を追って私も教室に入った瞬間、激しい耳鳴りで私は思わず両耳を塞いだ。

ノイズと共に視界が乱れて色彩が消え失せる。モノクロと化したその教室は、さっきとは別の場所に変わっていた。ここは確か……私が通っていた中学校?

教室の窓際では、数人の人影が一人の女の子を取り囲んでいる。人影の一人はハサミを持っていて、女の子は額から血を流していた。

「アンタがいけないのよ。髪を切ろうとする時に暴れたりするから、手元が狂ったじゃない」



ハサミを持った女の子が笑う。

「私はアンタみたいな綺麗な髪をした子が大嫌い。そして、それが当たり前の様な顔をしているアンタが死ぬほど嫌い」



確かにそのイジメっ子の髪は少しくすんだ狼の様な灰色をしている。そうだ――私が彼女の『獲物』になったのはこの時からだった。

「そうだ、アタシが教育してあげる。アンタをとことん追い詰めれば、その忌々しい髪も真っ白になるかもしれないもの」

「やめて……こんなの酷いよ……!」

「だったら、このハサミでその髪を全部刈り取ったら? そしたら許してあげる」



そう言って彼女は少女の足元にハサミを投げつけ、ケタケタと笑いながら取り巻きを連れて踵を返す。

こちらに歩いてくるのが見えた瞬間、私の背筋が凍った。彼女の双眸は、まるで空洞が空いているかの様に真っ暗だったからだ。

イジメの一味が去っていった後、少女はぼんやりとハサミを見つめていた。切られた前髪の下から滴る血が涙の様に頬を伝う。

どうしよう。声をかけるべきかと迷っていると、少女は徐にハサミを掴んでそれを自分の首元にあてた。

「……⁉ ダメ!」



私が叫ぶと同時にハサミの切っ先が喉を切り裂き、血だまりの中に少女が倒れる。

少女が虚ろな目で指を動かし、床に血で数字を書くのが見えた……『3』。



「いやああああああッ!」
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