ボーダーライン。Neo【下】
「大切な人と……無事会えると良いですね?」
そう言って、彼女は彼女らしい笑みを浮かべ、一礼を残した。
踵を返し、去って行く後ろ姿に、ありがとうと告げる。
いつになっても思う。自分に好意を寄せてくれる相手を、一途に愛せたらと。
けれど、それはどこまで言っても綺麗事で、僕にとっては有り得ない。
ーー俺にはやっぱり幸子なんだ。
だからこそ、ここで幸子が来てくれる事を信じて待たなければいけない。
徐々に人が増え始めていた。
若者の笑い声や国立美術館に足を向ける観光客を見つめ、僕は手持ち無沙汰に鞄を開けた。
とりあえず、変装をする必要性は感じられないが、伊達眼鏡だけ掛けておこう。
眼鏡と、暇潰しに持って来たウォークマンを取り出し、耳に付ける。
好きな音楽を聴きながらノートとペンを手に、歌手らしく作詞でもしようと試みた。
時折、人の流れをぼんやりと見つめ、昼ご飯に婆ちゃんが用意してくれたサンドイッチを食べる。
そうして、それに気が付いたのが現地時間の午後七時を回ったところだった。
ーーあ……。
小さめのスーツケースを手に、立ち止まる女性の後ろ姿を見て、僕は目を見張った。
割と丈の長いワンピースを着ていて、もう片方の手にはCDケースと思しき物を持っている。