子連れシンデレラ(1)~最初で最後の恋~
「すいません・・・黒沼さん」

食後、玲也にお留守番して貰い、黒沼の車で部屋に荷物を取りに行った。

「いえ・・・貴方が社長の命の恩人だと分かった以上は私も誠心誠意尽くさせて頂きます」

「そんな・・・」

夜の帳は下り、少し小雨が降っていた。

「社長が天空島に行った本当の理由を貴方はご存知ないと思いますので・・・あえて言いません」

「知っています。柊也さんのボストンバックには遺書が入っていました。彼は自分の病に悲観し、自殺する為、天空島に来たんですよね・・・」



「凛香さんのご存知でしたか・・・」

「はい・・・」

「社長は突然、私にも何も告げず・・・病室から姿を消しました。
頼みの綱のスマートフォンは電源を切られ、居場所は分からず。
血眼になって・・・社長の行方を捜しました。社長が居なくなって…四日目。
私はもう社長はこの世には居ないかと思い、諦めていました。
しかし、社長から一本の電話が届いて・・・」

「黒沼さん・・・」

黒沼さんは当時のコトを思い出し、運転しながら泣き、しゃくり上げた。

「泣いているんですか?黒沼さん。運転、大丈夫ですか?」

「大丈夫です・・・
天空島で何をしていたのかは・・・訊きませんでしたが。
一年後、逢う約束を交わしたと言うコトは訊いてました。
逢う為に手術を受け、病を克服すると意気込んでました。無事、生還を果たしましたが、天空島で過ごした凛香さんの記憶は失ってしましました。
こうなるコトが分かっていたら、私は社長に天空島での話を訊けば良かった。
そうすれば、貴方に玲也君を一人で産ませ、要らぬ苦労を掛けさせず済んだのに。
今では悔やまれます」

「黒沼さん・・・ありがとう。貴方も柊也さんと同じで優しい方ですね」

「・・・これからは私や社長を頼って下さい。凛香さん」



< 92 / 119 >

この作品をシェア

pagetop