すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
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いつものように興味のある本の話を彼女とする。

森林の国ということで、綺麗に整備された材木用の森林を見たことがないと言う彼女に、森の中にある施設に近々訪問予定があることを思い出す。

「今度、北の研究施設へ行く予定があるから、道中の案内できるけど?」

「え・・・」

何となく言った言葉に彼女の戸惑いの声が漏れた。

そして、自分でも気付く。

深い意味は全く意図してなかったのだが、日帰りするにはちょっと遠い場所に…旅行に誘っていることになるのか。

「あ、都合が良ければだけど」

あえて何でもないように装って告げる。

都合がいいはずはないのだ。

図書館へお忍びで来るのとは全く違う、王城から出るには許可や警備やいろいろ手配が必要になる。

「ごめんなさい」

案の定、少し困った表情をして断りの言葉。

都合も理由も判っているはずなのに、心の奥でがっかりしている気持ちがある。

こうして話をするようになったが、迷うことなく断れるほどの存在なのか、と。

「そうか、また機会があれば」

「そうですね」

作られた笑顔。

それはユナ公女の表情を思い出された。

図書館で会う彼女と別人のように感じていたが、な同じ人物なんだと改めて実感する。

そして王子として婚約者である公女に、公の場でそういう表情をさせているのだと気付いた。

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