すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
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「今から僕たち休憩しようと思ってるんだけど、良かったら一緒にお茶でもどうかな?」

本棚の向こう側からそんな声がした。

男子学生がどうやら図書館なのに女の子を誘っているらしい。

「いえ、結構です」

そんな彼らの声に応えた声はよく聞き知った彼女の声で。

思わず耳を傾けてしまった。

「そんなこと言わずに、休憩をとった方が作業もはかどるよ」

「お構いなく。ここで本を読んでるのが休憩みたいなものですので」

「えー まじめだねぇ」

断り続けても男二人が執拗に誘いをかける。

ここは一声かけて、彼女を助ける方がいいのかと足を踏み出そうとしたとき、

「私、婚約者がおりますので、誤解されるような行動はしないようにしているので、申し訳ありません」

「えーちょっとお茶だけだよ?」

「えぇ、それでも…迷惑が掛かってはいけませんから」

にっこりと満面の作り笑顔。

婚約者に迷惑…いや、自分達に厄介ごとが…そう思わせる含み笑顔。

「そ、そう。それは残念だ」

「仕方ないね。機会があればまた…」

そそくさと言いながら離れていく男子学生を、笑みを浮かべたまま、彼女は見送ってから小さ
くため息をつくと、何事もなかったように手に取った本を持って机の席に戻る。

ちょっと彼女の意外な一面を見た気がして、驚きながらも自然に笑みがこぼれた。

彼女は嘘や言い訳をせずに、軽く受け流すことが出来るのだと。

過保護に護らなければならない相手ではない。

それでも、助けなければと思ってしまった自分がいて、自覚する。

とりあえず、彼女に誘いをかけてきた彼らを、何かしらの罰を与えようとする婚約者を簡単に演じられるかもしれない。

そう思える程に、独占欲が生まれていたみたいだ。
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