すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
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図書館で会うベルデと同一人物であると伝えても良かったのかもしれない。

でも、王子としての彼女との時間を共有したいと思った。

どちらも演じているとは意識しない自分自身ではあるけど、仕事モードではない素の部分の自分で。

今日はユナ姫に逢う予定だと言うと、いつも以上に気合を入れて王子様仕様に仕上げてきた衣装係の従者。

いつも学生と変わらないラフな格好のベルデとは思わないだろう。

邪魔にならないよう無造作に結ぶだけの髪も、サラサラに軽くひとつに結んで肩に流している。

「生活に不便はないですか? 王城内だけじゃ気を紛らわすモノも少ないでしょう?」

「いえ、タヤカウと違って緑豊かで、中庭を見てるだけでも楽しいのです。少し高い塔の上に行くと、町の向こうまで緑の山で、いつまでも飽きずにみてしまいます」

図書館では物語で出てきた物や場所など、関連したモノを本で調べていた。

先日、思わず誘ってしまったのも、実物を見せてあげたいと思ったからだ。

タヤカウの国は砂漠の国。王都はオアシスによって豊かだと言うが、離れた場所へ移動するのは大変だと聞く。

楽しそうに笑う彼女に、更に惹かれていく。

すーっと侍従シリンの姿が視界に入る。

そろそろ時間らしい。

「もうすぐ仕事の方もひと段落しますので、これからもこうして時間を取ってくださいね」

「はい。もちろんです」

大学の教授との報告と打ち合わせ、研究資料の作成に、兄王太子に任せられた提出書類の校正とやることは山積みだ。

「ではユナ姫、また」
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