すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
ようやくの対面
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「綺麗ですね」

「えぇ?」

思わず呟いた言葉に彼女は驚いた表情を見せる。

中庭のテラスで共に昼食を取った後、ゆっくりとしたお茶タイム。

これが婚約者として初めての共有している時間。

「あ、お庭の風景ですか」

季節に合わせて植えられた草花が、咲き誇っている中庭。

それよりも自分にとって目を引くのは、数日ぶりに逢う目前にいる彼女で。

「いえ、貴女がです」

「…ありがとうございます」

昨夜遅くに王城から北方にある施設の視察を終えて、王宮に戻ってきた。

予定では今日の朝に施設を出て昼過ぎに戻る予定だったのを、馬車を走らせて

予定を繰り上げた。

彼女との時間を作るために。

施設から持ち帰った植物など、今朝から中庭の一部に植え替えが進んでいる。

図書館で会う眼鏡の可愛らしい姿ではなく、公女としての凛とした装いの彼女とこうしてきちん
と対面するのは今日が初めてだった。

顔見せとして以前も姿を見たはずなのに、彼女の印象が違って見える。

別の姿を知っている分、自分に逢うためにとまではいかなくても、美しく整えている姿が嬉しく思う。

これが恋心なのかとひとり勝手に納得しながら、彼女を見つめる。

テーブルを挟んだ距離。

昼食を取ったため、お茶会より大きなテーブルで距離がある。

眼鏡をかけていない彼女は、自分の細かな表情までは読み取れていないかもしれない。

だから、言葉で伝える。

素直に照れて俯く彼女が、ちょっとした仕草が、図書館でのシーラと重なり自然と笑みが浮かぶ。
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