すれちがいの婚約者 ~政略結婚、相手と知らずに恋をしました~
図書館へお忍び
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確か、大学棟への渡り廊下を渡った先が、図書館だったはず……。

従者も連れず、一人でこっそりと歩く。

陽が暮れて周囲は暗いが、廊下は灯りが灯されて移動に不便はない。

ポイコニーの王城はさほど広くはない。

王宮の左右に政務を行う省庁と研究・教育機関である大学が位置し、木造作りの荘厳な建物が回廊で繫がれている。

ユナは王宮に与えられた部屋から抜け出して大学棟へ足を踏み入れた。

図書館は研究や学生の課題のため、昼夜を問わず解放されているらしい。

入口を見つけ中を覗くと、大量の書物が大型の本棚に収められている。

人もまばらにいる。

中央ロビーには机と椅子が並び、入口からは見えないほどの奥行で本棚が続いている。

さすが大学の図書室。

入口カウンターには司書が作業しているが、呼び止められることもなく中へ入れた。

王城の大学内ということで、王城敷地内に入る時点であらかじめ身分証明がされているのだろう。

それに、今のユナの姿は学生たちに溶け込んで違和感はない。

長い髪は左右二つに分けて三つ編みにし、眼鏡をかけて地味な格好。

変装というよりは、一番楽な格好なのだ。

そうすると年齢よりも年下に見えるらしいので、学生の新入生に見えることだろう。

入口から見えなかった壁際には数人でも使用できる個室がいくつか並び、軽く食事や休憩場所も設けられている。

これは…ずっと入り浸ってしまいそう……。

本好きにはたまらない場所だ。
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