心の鍵はここにある
 加藤先輩は、私の目の前で両手を合わせて拝むような格好をしながら頭を下げた。
 私は、まだ固まっていて身動きが取れずにいる。

「総体予選は六月の頭にあるんだけど、それが終わったら三年は引退するの。あいにく今の女子マネージャーは二年ばかりだから、できれば男子の方、お願いできないかな?」

 先ほどの拝むポーズをして頭を下げたまま、上目遣いで私の顔を覗き込んだ。
 急にそんなふうに下手に出られると、どう対応すればいいのかわからなくなり、私は越智先輩の方を見た。
 越智先輩も、なぜか私を見つめたまま固まっている。
 なぜ?
 私の視線に、ハッと我に返ったらしい越智先輩は、頭を軽く振ってから再び私を見た。

「五十嵐さんの都合を確認もせずにこっちの都合を押し付けて、ごめん。でも、俺からも、良かったらマネージャーの件、お願いします。彩奈の言うように、俺目当てでマネージャー希望する子が多くて、告白を断ったらすぐに辞めちゃうから本当に困ってるんだ。五十嵐さんの今の言動を見たら、それに関しては心配なさそうだし。せめて総体が終わるまで、お願いできないかな?」

 先輩二人に頭を下げられ、格好がつかない私は、渋々マネージャーを引き受けた。

「でもさ、総体終わってすぐ辞めちゃうと、やっぱり直狙いって思われて、直のファンから嫌がらせを受けるんじゃないかな? 五十嵐さん一年生だから、後のことキチンと考えてあげないと可哀想だよ」

 加藤先輩が、私の心配をして越智先輩に話をすると、越智先輩もしばらく何かを考えている。

「五十嵐さんはこの学校の上級生に、だれか知り合いとかいる?」

 越智先輩が(おもむ)ろに口を開いた。
 私は首を横に振る。

「いえ、私の父は転勤族で、ここに来たのは中二の夏なので、知り合いはいません」

 私の返事を聞いて、越智先輩は益々考え込んだ。

「んー、バレー部のだれかの親戚とかなら、だれも文句を言う奴はいないんだけどな……。それかだれかの彼女、とか」

 何だかマネージャーをやるのも、下手したら一悶着ありそうだ。
 しばらく先輩二人は考え込んでいたけれど、越智先輩が恐ろしい発言をした。
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